三伏峠から雨中の荒川三山を縦走
団塊オジサン
06年7月15−18日
静岡県・荒川三山の一つ悪沢岳(東荒川岳=3141m)は、南アルプスの「深田百名山」10座のうち唯一登り残したもので登頂機会をうかがっていた。折しも今シーズンから三伏峠方面行きの季節バスが、従来の塩川ルートから鳥倉(豊口)登山口ルートに路線変更になったのを知り、鳥倉口からなら新宿始発の高速バスを利用すれば、夕刻には三伏峠小屋に容易に到着できるとみて、三伏峠から荒川三山を経由して伝付峠まで一気通貫で縦走してみようと7月の3連休に単独で挑むことにした。
<15日=皮肉な天候、移動日は快晴>
初日は新宿7時発の高速バスに乗車、中央道は渋滞するも予定通り松川ICで登山バスに乗り換え14時10分に目的地の鳥倉登山口に到着。登山バスは林道ゲートよりさらに奥に入るので30分程度の林道歩きを短絡できる。14時30分に歩行開始、途中の水場で1回休憩し予定通り17時に三伏峠小屋到着。梅雨前線の停滞で天気予報は最悪とあって小屋は書き入れ時の3連休ながら5割程度の込み具合。小屋到着が遅く夕食は自炊、朝食と弁当を頼む。翌日からの長丁場に備え寝酒もほどほどに早めに床に就く。夜半から雨脚が本格的になってきたようだ。
<16日=恨みの雨は菅笠で凌ぐ>
2日目は予報通り雨で歩き出しから合羽に菅笠。初めてのコース、3000m級、単独という条件からすれば、悪天候の中を突っ込むのは「無謀」かもしれないが、アプローチの不便な南ア南部は度々来れるものではない、北アと違い2500−2600mまでは樹林帯なので雷さえなければと、何のためらいもなく歩き始める。今日の行動予定の核心部は最後の3時間余で標高差600mと前岳手前のガレ場を通過すること。5時に小屋を出発、烏帽子岳、小河内岳、大日影山、板屋岳と着実にピークを踏む。
小河内避難小屋ではコーヒータイム。途中3組の登山者と出会うが月並みな挨拶で離合、「悪天にこの地味なコースを単独縦走だなんて奇人変人の類」と思われていたかもしれない。さはさりながら梅雨の季節は高山植物の季節でもあり、梅雨空に映える可憐な花たちを愛でながら歩くのも決して捨てたものではない。とはいっても悲しいかな花名が分かるのはほんの2−3種類。高山裏避難小屋で昼食、小屋番は「一見、無愛想」がネットの世界での評だが、シーズン中にいくらも立ち寄る人のいない、たかだか数百円の休憩料の登山客に逐一愛想なんか振る舞っていられないというのが本音か。
高山裏小屋を過ぎ荒川前岳を目指して標高差600mをあえぎながら登る。疲労も蓄積してきたので余分な水を捨てて身軽にし、稜線の強風を想定して菅笠からフードに切り替える。樹林帯からハイマツ帯を過ぎ荒川大崩壊地の縁を登る。予想通り猛烈な風でペースが鈍る。高山裏小屋オヤジの「山は風が強いのが当たり前」という言葉が甦る。展望はもちろんなく岩陰にゆれる花畑が唯一の救い。15時過ぎになんとか3068mのピーク前岳に着き小休止、荒川小屋への分岐を右に分け中岳を経由して中岳避難小屋(有人)に到着した。先客は4人で1人は山岳トレイルランナー。彼の話によると「重装備をして長時間、山中に居るのは危険。極力、身軽にして早く山中を通り抜けるのが最も安全な方法」とのこと。山に対する考え方は様々だが、所帯道具一式を持ち歩く旧来の登山者の考え方とは容易には相容れないだろう。夕食はカップめんで軽く済ませ、時折り強風で揺れる2階部屋で一夜を過ごす。
<17日=悪沢岳は涙雨>
3日目は当初、二軒小屋ロッジまで行き1泊し、翌日は伝付峠から新倉に抜ける計画だったが降雨予報と沢沿いルートなので増水を警戒して千枚岳から椹島にエスケープして帰京することにした。風が弱まるのを待って6時に出発をずらす。入山3日目にして目標のピーク悪沢岳に7時30分に到着、95座目の「百名山」。やはり「南アルプスは遠い、雨が憎い…」。ほどなく男性2人組が千枚岳側から登頂、証拠写真を撮ってもらう。強風のため5分ほどで山頂を辞し千枚岳を経由して椹島に向かって下る。千枚小屋、蕨段で各15分程度の休憩をとる。3組ほどの登頂者に出会い、傘を差した女性の単独行者からは天気情報を詳しく教えていただいた。
途中の鉄製階段で足を滑らせ7、8段を一気に転落したが階段最下部でうまく着地、事なきを得る。下山口に近い急斜面に張り付いた登山道では谷筋の増水で崩壊寸前のところが何カ所かあり、トラバース時に足場が崩れれば1巻の終わりというところでは、さすがに緊張を強いられた。14時前に椹島ロッジに到着、着替える暇もなく雨具を脱いだだけで最終の送迎バスに乗り畑薙第一ダムへ。ところが今年からダイヤ変更で14時の送迎バスでは静岡駅行きの路線バスには間に合わないことが判明、仕方なく運転手さんに畑薙ロッジで泊まるから送ってくれと頼むと、畑薙ロッジは管理人が気まぐれで営業していない日も多いといい、実際、営業していなかった。タクシーを呼ぶと2時間以上待機し料金も2万円以上かかる。仕方なく送迎バスに戻り、椹島ロッジで宿泊することにした。温泉でない宿泊所には泊まりたくないが、体がふやけるほどの濡れネズミとあってやむなし。
<18日=やっぱり雨、雨宿りは駅前居酒屋>
乾燥室で濡れた衣類を乾かし、身奇麗にして椹島ロッジを3回目の送迎車に乗り出発。途中の林道は所々落石や冠水があり、運転手さんの話だと今夜くらいには道路閉鎖になるかもしれないと話していた。畑薙第一ダムでは1時間の待ち合わせで路線バスに乗り換え大井川、安倍川沿いに3時間半。静岡駅前の居酒屋では3日連続雨に打たれたとあって下山後は定番の生ビールはやめ、「鬼ころし」の熱燗大盛りで一献。静岡名産の真っ黒な出汁が浸みたおでんを食し、ゆっくりと雨宿り。17時過ぎの新幹線に身を任せる。同じ静岡市葵区内ながら椹島からJR静岡駅への移動はバスで50km、3時間半、一方、静岡駅から東京駅へは新幹線で200km、1時間弱という時間格差。
帰宅した翌日の20日、新聞で静岡県の男性3人パーティーが塩見岳から二軒小屋へ抜けるルートから、まだ下山していないという報道を知った。テントと小屋泊の違いはあるが同じ15日に三伏峠で一緒だったはずだ。無事を祈ると同時に、やはり今回の悪天候下の行動は「無謀登山」なのかなとも思う。(雨と強風でコースタイムは記録できず)
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