バースデー登山は北岳・間ノ岳・塩見岳縦走 

05年9月16日夜―19日 団塊オジサン

北岳山頂で

 首都圏を起点にすると南アルプス北部の深田百名山は交通アクセスがよく、無雪期ならば「安・近・短」の部類に属すると思われる。ハイ・シーズンの混雑を嫌って日本第2の高峰、北岳(3193M)は「百名山スタンプラリー」では先延ばしにしてきたが未登頂の山も少なくなったとあって、間ノ岳(3189M)、塩見岳(3047M)とセットで縦走することにした。山中3泊が一般的なようだが、営業小屋利用で気象条件もよく、塩見岳から三伏峠にかけての下山路は樹林帯の1本道なので夜間歩行も視野に入れ、いささか強行軍ながら山中2泊の計画で挑んだ。

 前夜はJR立川駅から最終の「特急かいじ」に乗車、終着の甲府駅では偶然、湯けむりさんらと出会う。彼らは究極のバリ・ルート、北鎌尾根へ行くとのこと、私は1人で軟弱な一般ルート。4時の始発バスに乗りうたた寝、広河原の登山口をスタートしたのは6時前。3連休に加え好天予報とあって北岳への登山客は行列状態で山小屋での激込みが懸念される。山頂まで休憩無しで歩き抜こうかとも思ったが、前夜の睡眠が1時間余りなので無理は禁物と肝に銘じた。大樺沢沿いのコースを取り2時間足らずで二俣に到着、パンとコーヒーで朝食をとる。眼前に現れたバットレスにはクライマーの姿は見られなかった。

 2700Mを超えた大樺沢最上部あたりにくると軽い頭痛が出始めた。前夜の酒と睡眠不足による高山病の初期症状かと、休憩を長めに取り体力回復に努める。嫌になるほど多くのハシゴを登り詰め八本歯のコルに到着。対面の八本歯の頭方向を見やると、冬コースとはいえかなり厳しそうなヤセ尾根で、よくこんなコースをわが会のベテラン勢は冬季縦走したものだと改めて感心する。

 歩行開始後6時間余で北岳山頂に到着、登頂者も多い。正確な山座同定はできないが展望は360度。本日は58回目の誕生日、百名山登頂も90座目を数え記念写真をとる。あとは北岳山荘に下るのみ。小屋では食事は3回戦の込み具合。最終的に通路や自炊場まで布団が敷き詰められたが1人1枚の寝具が確保でき一安心。小屋前の広場で富士や南アルプス南部の山並みを眺めながら一人酒を呑む。不思議なもので座って呑むよりも立って呑む方が落ち着く。日本第2の高峰に登ったのだから、ベンチに腰掛ければいいようなものだが、日ごろの立ち飲み屋での飲酒スタイルがすっかり習い性になってしまったようだ。

 山中2日目も快晴。今日は間ノ岳、塩見岳を経て三伏峠を目指すが、長丁場なので状況次第では熊ノ平小屋泊まり、あるいは両俣小屋へエスケープすることもオプションに考えていた。2食分の弁当を作ってもらい夜明けと同時に小屋を出発。中白根を経て2時間弱で間ノ岳に到着し朝食の弁当をいただく。農鳥岳を経て奈良田へ下る白峰三山縦走コースも魅力だったが計画通り塩見岳をめざす。ぐっと人影が少なくなり見通しのよいところで確認すると、先行者はゼロ、後続は2人パーティーの1組だけのようだ。
 
 9時過ぎに熊ノ平小屋に到着、フルーツゼリーを購入し英気を養う。小屋番に尋ねられて「塩見岳を経て三伏峠小屋まで一気に下る」と答えると、時刻を見ながら半ば呆れ顔で「稜線に出ると携帯電話が通じるから、暗くなった時のことを考え三伏峠小屋に連絡をしておけ。途中の水場は汚染されているから飲むな」とのアドバイスを受ける。「今度、機会があれば是非とも宿泊利用させていただきます」と礼を述べ再び歩き出す。

 登山道は南ア特有のシラベの樹林帯で2500M超の高度があるとは思えないほどで足取りも軽い。紅葉は草紅葉がようやく始まり出した程度。新蛇抜山近くの小岩塔で2組のツアー登山に出会うが、逆コースを3泊4日で行く彼らと遭遇するのも想定済み。途中、2人の軽装トレイルランナーに追い越される。正午過ぎに北荒川岳に到着、2組が昼食を取っていた。いずれも熊ノ平小屋泊とのこと。ここは塩見岳の絶好の展望地。登頂コースは鮮明に見えるが時間がかかりそう。さらに塩見岳から三伏峠まで下るのに4時間と思うと嫌になるほどの歩行距離だ。

 北ノ俣岳から塩見岳への急登では疲れも出始め、登りでは極端にスピードが落ち休憩も増える。なんとか塩見岳東峰に15時前にたどりついた。静岡から来たという空身のご夫婦らしき方と会話を交わし写真撮影してもらう。山頂西峰を経て直下の岩場をビビリながらも慎重にこなし塩見小屋に到着。同小屋は例年9月15日で営業終了のはずだが宿泊客が小屋前で談笑していた。ここで20分間休憩し三伏峠小屋の情報を仕入れる。あと3時間の歩行。ここまでくれば三伏峠小屋到着の目処はついた。

 途中、小屋の灯火が見える本谷山でヘッドランプとマグライトを付け樹林帯を歩く。幸い中秋の名月とあって月明かりにも助けられ、コースも1本道で事前にシミュレート済みなので、単独の夜間歩行といっても不安や恐怖感はまったくない。つまずき転倒に気を付けるだけだが、さすがに赤テープは夜陰には視認しづらい。三伏沢への分岐を左に見送り三伏山の登りに差し掛かると、野営場が現れ三伏峠小屋にようやく到着した。小屋番に名前を名乗り遅くなった事情を説明し、稜線からは小屋を経営する旅館にも事前連絡をした旨を伝えると、逆に旅館側から小屋に無線連絡が入っていなかったことに恐縮したのか、朝食付きのところを素泊まり料金にしてくれて缶ビールまでサービス。2食目の弁当を食べ始めるとお茶も出してくれ、さらに「消灯時間を15分繰り下げるから、ゆっくり呑んで疲れをとりなさい」との厚遇に、感謝しきりだった。

 翌朝は朝食時に下山後の足確保のため、タクシー相乗り客を探すと(1万4000円のタクシー代は1人では痛い)、町田市からの男性客が「車で来ているのでJR伊那大島駅まで送りましょう。八王子駅でもいいですよ」と手を上げてくれた。早速、「高速料金は私が持ちますのでお願いします」と厚意に甘えた。68歳で会社経営者、登山暦も30年のキャリアがあるという。歩行スピードは速く、後ろから付いて行くのが精一杯で豊口山登山口に1時間20分で下ってしまった。4WDのワゴン車に世話になり、松川町が経営する温泉リゾート「清流苑」で汗を流し、信州りんごをかじりながら渋滞にも巻き込まれずに東京に戻った。いささか急ぎ働きの単独縦走だったが、天候に恵まれ、小屋番はじめ出会った人々に恵まれたからこそ無事に歩き抜けた、というのが下山後の正直な感想だ。日が暮れてから三伏峠小屋にたどり着いた際、重装備の青年に「今朝、北岳を出発した」と言うと「いやぁ、気合が入ってますねぇ」とヨイショされたのには年甲斐もなく嬉しかった。

<コースタイム>

9月16日=JR立川駅2327−19日0040甲府駅0400(バス)−0615大樺沢出合

17日(快晴)=広河原山荘0652−0850二俣(朝食)0920−1040大樺沢最上部1100−1130八本歯のコル1140−1220北岳山荘分岐1245−1314北岳山頂1330−北岳山荘1435(泊)

18日(快晴)=北岳山荘0510−0542中白根0547−0640間ノ岳(朝食)07005−0745三峰岳0800−0839農鳥岳分岐−0903熊ノ平小屋0915−1025新蛇抜山手前1045−1200北荒川岳(昼食)1220−1400北ノ俣岳−1455塩見岳東峰−1500同西峰1515−1600塩見小屋1620−1750本谷山1810−1922三伏峠小屋(泊)

19日(快晴)=三伏峠小屋0655−0719豊口山登山口0730−0800駐車場ゲート(車)−0940まつかわ温泉清流苑(入浴)−八王子IC