蕉風の大台ケ原、
美渓の大杉谷を歩く
団塊オジサン 前 略 「安達太良からの手紙」拝見しました。雪を抱いた飯豊や蔵王のみちのくの山々が目に浮かぶようでした。貴女の山旅に刺激され、私は5月3−4日に近畿の屋根といわれる大台ケ原山、大杉谷を歩いてみました。大台ケ原は「1年に400日雨が降る」といわれ、「1月に33日雨が降る」と林芙美子が形容した屋久島・宮之浦岳と並び多雨で有名な山域です。でも、ガイドブックなどで雨を誇張されるので、「かえって登山客が遠のいてしまう」というのが地元の方の率直な気持ちのようです。雨もやむなしと計画したのですが、幸いにも2日間とも五月晴れに恵まれました。
前夜の奈良行きバスで新宿駅を出発、途中、1時間ばかり乗車した近鉄電車は大台ケ原のほか大峯山系を目指す乗客も目立ち、さながら登山列車でした。耳にする乗客の会話が関西出身の私には懐かしさと親しみを抱かせたものです。大台ケ原バスターミナル到着が午前10時30分。大台ケ原は奈良県の山深いところに位置しますが、ドライブウエーが早くから通じた山上が平坦な台地で、若干のアップダウンのある周遊路を整備したファミリー向けの山のようです。 シオカラ谷を経て大蛇グラまで小1時間。大蛇グラから望む大峯山系は重畳たる山並みで、眼下に深く切れ込み東ノ川に連なる峡谷はかなりの高度感でした。大峯山系を眺めながら、来年あたりに1300年の歴史を刻む修験道「大峯・熊野奥駈け道」を縦走してみようかと思っています。広大な笹原が広がる牛石ケ原で野生の鹿を見物しながら昼食。そそくさと今回の最高峰、日出ケ岳(1695M)を目指しました。途中の正木ケ原はトウヒの立ち枯れが有名で、昭和34年の伊勢湾台風で樹木がなぎ倒され、秘境ともいわれた原生林は今なお明るい笹原に覆われた状態で、一度傷ついた自然は原状回復に100年、200年の歳月が必要ということが改めて認識されます。日出ケ岳は富士山が見える西の限界とのことですが、春霞の季節でもあり尾鷲湾すらも見ることができませんでした。 大台や巴に三つの水上は 熊野に吉野 伊勢の宮川(西行法師)
日出ケ岳を辞しいよいよ三重県・大杉谷に入ります。渓谷は標高差1300M、13キロの山道で、この間12の滝が西行が詠んだ宮川(下流の一部は伊勢神宮を流れる五十鈴川を潤す)の本流に落ち注ぐ観瀑コース。清津峡、黒部峡谷と並び三大渓谷の一つだそうですが、「初級者は通行不可、危険・死亡事故多し」の看板と、車で往復の来訪者が多いせいか入山者は大台ケ原に比してぐっと少なくなります。開花にはまだ早い急峻なシャクナゲ尾根を下り、今日の宿泊地、標高1200Mに位置する「山の家粟谷小屋」に到着。宿泊客は約50人ほど、こぎれいな6畳個室の4人相部屋利用で、GWにしてはゆったり休めました。温泉ではありませんが浴槽が高野槙(こうやまき)の1枚板で作られた立派な風呂も備えられ、経営主体が伊勢の海産物卸のせいか、食事も山海の料理で美味しくいただけました。
翌朝は5時過ぎに小屋を立ち峡谷沿いの山道を下り、最初に遭遇したのが堂倉滝。以下、七段の滝つぼを持つ七つ釜滝を中心に、最後は落差130Mの千尋(せんひろ)の滝で12の観瀑コースのフィナーレを飾ります。いずれも山上の滝にもかかわらず水量は豊富で、朝日が新緑に映え絶景でした。後半部分の大日グラには高さ100Mを超す1枚岩に登山道を穿った「黒部の水平歩道」のようなところもあり、ちょっぴりスリルも味わえました。南アルプスの鳳凰三山から御座石鉱泉に下る道も観瀑コースで有名ですが、快晴で新緑の季節だったこともあり、私はこちらの方がはるかに美渓に思えました。「百名山ガイド」には大台ケ原のみを案内したものが多いですが、大杉谷とセットの登山が是非ともお勧めです。峡谷に付けられた岩棚の道は、確かに一歩足を滑らせれば谷底に転落しそうな危険な箇所は幾らかありますが、コースの6−7割はクサリが設置してあり慎重に下れば大丈夫そうです。でも雨の日と、強度の高所恐怖症の方は少々辛いかな。
第三発電所がある大杉谷登山口到着が12時20分。ここからは約30分ダム湖をジェット船で下りバス停に至るのですが、生憎、ダムの放水制限で船の運航が途中まででしたので、やむを得ず舗装路を歩き始めました。徒歩だとバス停まで約2時間。幸い1キロほど歩いたところでヒッチハイクに成功。「関西人は優しいなぁ」と人の厚意に軟弱にも甘えてしまい、またまた、貴女から「これやから京男は、あかへんねん」と言われそうですね・・・。 草 々 03年5月5日
<コースタイム=5月3日>大台ケ原BT11:00−シオカラ谷11:20−大蛇グラ12:10−牛石ケ原12:30(食事休憩)」−尾鷲辻−正木ケ原―日出ケ岳14:05−山の家粟谷小屋15:40(宿泊)=歩程8キロ <4日>粟谷小屋05:10−堂倉滝06:10−七つ釜滝07:50−桃の木小屋08:10−平等グラ08:37(食事休憩)−千尋の滝10:33−大日グラ11:00−登山口12:20−大杉バス停13:03−JR三瀬谷駅14:35−松阪市17:10(松阪牛を食す)−東京=歩程13キロ(休憩・食事含む) |