手紙でつづる伊吹山・荒島岳
団塊オジサン 拝 啓
梅雨入りを前に爽やかな気候が続いています。雨の季節になる前にと、私も貴方に倣って西日本の2座を5月17、18日の週末を利用して登りました。滋賀県・伊吹山(1377M)と福井県・荒島岳(1524M)です。いずれも山ろくにスキー場を擁し、首都圏在住の者にとっては、何かきっかけでもなければ訪れる機会が少ない山域です。 17日に登頂した伊吹山は全山が石灰岩層で覆われ、1000種を越す草花が育ち、固有の高山植物、薬草も多彩で女性に人気のある山といいます。一方、北西の斜面には石灰石を採掘する大型プラントがあり、秩父・武甲山と同じ悲劇の側面も併せ持った山です。夜行バスとJRを乗り継ぎ、ゴンドラリフトも利用し、3合目を午前9時前にスタートしました。3合目から5合目にかけては西日本でも有数のスキー・ゲレンデで、ここを過ぎると登山道は一気に山頂まで突き上げます。このルートに草花が咲き乱れ、時節柄、美しく咲き誇る花たちで夜行バスの疲れを癒されました。だけど「花の名前音痴」の私には花の名称は分かりません。また、分かったとしても「ねぇねぇ、あそこに○○が咲いてる。ご覧になって・・・」と呼び掛ける相手もいない単独行です。
10時過ぎに着いた山頂には「日本武尊」が祭られ、高山植物を観察できるプロムナードが設置されています。琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)を遠景に望み、うっすら掛かり始めた霧に包まれながら、のんびりと山頂を逍遥。この霧の出やすい地形が1000種を越す植物群を作り出す要因とガイドには書いてありました。ドライブウエーが山頂近くまで通じていることもあって、売店や石造りの野外ステージがあり、軽装の観光客も多数見受けられ、純粋な登山者にとっては興ざめの感は否めません。 実は私がこのルートを登るのは2回目で、前回は20歳の時、季節は夏の終わりでした。夏場は夜間登山が盛んなところで、私も懐中電灯を片手に登りましたが、途中、懐中電灯を破損、星と山頂の山小屋の明かりだけを頼りに必死で登ったことを鮮明に覚えています。あの時も単独行でした。今にして思えば「若かったあの頃 何も怖くなかった」年頃だったのでしょう。 帰路は同一ルートを1時間余で下山。JR長浜駅行きのバスに乗り、運転手さんと会話を交わしましたが、やはり「花の宝庫ゆえ女性の登山客が多い」とのことでした。でも、かつては草花よりも、殿方御用達の強壮剤の素「伊吹山の赤マムシ」採集で有名だったことで、運転手さんと話が弾んだことを一言申し添えておきます。 初日はあわただしい山行となりましたが、翌日の福井・荒島岳に備えて133キロの列車移動です。福井市から大野市・勝原までのJR越美北線(九頭竜湖線)は1両編成のディーゼル車で、沿線は田植えを終えた水田が一面に広がる穀倉地帯で、ローカル列車の旅を満喫できました。前夜泊のお世話になったところは、山ろくで唯一の荒島岳登山者専門の民宿で、おかみさんは宇野千代風の気さくな方でした。荒島岳は深田久弥氏が身びいきで選んだ百名山と揶揄(やゆ)されている事情もよくご存知の様子で、「このような過疎の村に、全国各地から来ていただける皆さんに少しでもよい思い出をお土産に帰っていただこうと誠心誠意、努力を傾けています。天気のいい日なら荒島岳も百名山の名に恥じない、いい山ですよ」と、郷土の山を愛する気持ちのこもった応対に感激したものです。
早朝6時に民宿を出発。山ろくのスキー・リフト沿いに歩を進め、ゲレンデを通過し樹林帯に入ると階段を交えた急登が続き、2時間ばかりでシャクナゲ平。大きなハクモクレンに迎えられ、振り返ると荒島岳の山容がようやく姿を現し、谷筋には残雪が豪雪地帯の名残をとどめています。アップダウンを繰り返しながら、前荒島・中荒島の小ピークを越え祠のある小広い山頂に到着。大野富士と呼ばれるように独立峰で360度の展望。北東方向には、まだたっぷり雪を抱いた加賀白山、右に目をやると能郷白山が眺望できました。 春霞のため北や中央アルプスまでは望めませんでしたが、民宿のおかみさんが言葉通り、百名山にふさわしい山だと感じました。人が身びいきの百名山というなら、身びいきの山があることも素敵なことと思います。だって私にとって貴方は「身びいきの人ですからね」。民宿でこしらえてもらったお握り弁当を山頂で頂き、シャクナゲ平までピストン下降。そこからは小荒島を経由する中出(なかので)コースを選びました。踏み跡から察するに、往来は少ないようで、小荒島では1組のご夫婦がいらしたのみ。でも荒島岳を展望するには抜群のロケーションです。勝原コースに比べ緩やかな傾斜のブナ林を縫うように2時間ばかり下り、水郷登山口に無事、降りることができました。登山口からJR下唯野駅までは30分の農道歩きですが、水田地帯は清冽で豊富な水量の掘割が巡らされ、越前の小京都と呼ばれる大野市の一面が見られたような気が致します。 今回の山行は厳しい所もなく、花と新緑という季節にも恵まれた華やいだ山旅でしたが、心の片隅に孤独感がついつい顔を覗かせました。たった1人の山旅はこれからも続きます。でも百名山のフィナーレは貴方と一緒に登りたいと願っていますが、いつ、どこの山になることでしょう。乱筆乱文をご容赦ください。 草 々 平成15年5月18日 福井県大野市にて <コースタイム> 5月17日(薄曇り)=JR近江長岡07:30−伊吹山登山口ゴンドラ08:30−3合目08:45−山頂10:07−山頂休憩11:00―3合目ゴンドラ駅11:50−登山口バス停12:30(バス)−JR長浜13:17−福井(乗り換え)−JR勝原―民宿・林湊(16:30) 18日(薄曇り)=民宿06:00−勝原登山口06:35−リフト頂上07:14−シャクナゲ平08:37−09:57荒島岳山頂(昼食)10:53−シャクナゲ平11:57−小荒島12:20−水郷登山口13:37−JR唯野駅14;20−JR福井(リムジンバス)−小松空港−羽田空港 |