雨、雷ニモ負ケズ
        岩手山にしつこくアタック

             02年8月3−5日 団塊オジサン

 今年のゴールデンウイークに北東北の岩木山、八甲田山、八幡平に登った帰りの車窓から見た残雪の岩手山の雄大な山容が印象的で、近々、兆戦しようと機会をうかがっていた。ただ、岩手山は火山活動中のため夏場の3ヵ月間余以外は入山不可能。そんな折、JR東日本の「たび割7」という企画切符を利用すると、盛岡駅まで新幹線で通常料金のほぼ半額で往復できるということを知り、それなら週末に一気に早池峰山(1917M)と岩手山(2038M)に登ってしまおうと、単独行を計画した。

どれがハヤチネウスユキソウ――3日早池峰山

 JR新花巻駅で季節運行の早池峰山行きバスに乗り換え1時間余、登山口の河原坊(1050M)に到着。予想降水確率50%とあって、出だしからの雨で雨具を着込む。取り付きの登山指導所では、河原坊コースはコメガモリ沢沿いで途中に渡渉もあり要注意の指導を受ける。しかし、スタート(10時50分)が遅く、帰路の最終バス便が早いので、行程を少しでも短縮しようと、登りは迷わず沢沿いのコースを選んだ。途中、何回かの渡渉があったが、どうということはなく(増水時はこのコースはお勧めできない)、順調に歩を進める。中間地点の頭垢離(とうりこうべ)からは岩場の尾根登りで結構きつく、山頂近くでは傾斜が一段と増す。途中、出会った環境庁の女性指導員にどれが「ハヤチネウスユキソウ」か教えを請うと、親切に教えてくれた。どうもネオンの華、夜の蝶の誘惑には弱いが、本物の花の名前は苦手だ。

「深田百名山」で人気の山だが雨模様のため登山者は少なく、山頂で出会った登山者は10人に満たなかった。もちろんガスで周囲の山々の展望はゼロ。帰路は雨にぬれた美しい這い松帯のなかを、緩やかだが滑りやすい蛇紋岩質の小田越へと下りシャトルバスを乗り継ぎ、なんとか盛岡市行きの最終高速バスに間に合った。新幹線をうまく使えば首都圏からでも日帰りは十分可能だ(いささか味気ないが…)。

3日コースタイム=河原坊(10:50)−頭垢離(12:20)−山頂(13:40、昼食休憩45分)−山頂(14:25)−小田越(16:00)

「さんさ踊り」たけなわ、みちのく盛岡の夜

 翌日の岩手山に備えにホテルはJR盛岡駅前に予約。3日は東北五大祭りの一つ「さんさ踊り」の最終日で、目抜き通りは交通渋滞。盛岡駅前のバス停に到着したのが20時を過ぎていたので、リュックを背負ったまま行き付けの呑み屋(といっても2度目だが)に直行。生ビールと三陸沖でとれたイカ刺しで、いつも通り一人反省会。再会を期待していた美人のママさんは、「さんさ踊り」に出かけていて客も含め女性陣はゼロ。仕方なくママさんの留守番代わり(多分ご主人?)のオヤジを相手に「南部美人(銘柄名)」をあおり続ける。

3日夜コースタイム=盛岡駅(20:20)−居酒屋「南部」(20:25)−酒のため停滞(22:20)−ホテル(22:25)

入山後30分で撤退ーー4日、岩手山=雷雨のち晴れ間

 さて、今回の本命、岩手山――。盛岡駅から2つ目のJR滝沢駅からタクシーで馬返し登山口に6時20分に到着。相変わらずどんよりと雲が垂れ込めている。火山活動中のため登山者カード記入の指示も徹底している。勢いよく湧き出る鬼又清水を口に含み前日のアルコールを吹き飛ばし、いざ登山道へ。ところが、入山後5分もたたないうちにポツリ、ポツリ。そして稲光、雷鳴が激しくなり始めた。構わず歩を進めたが、雨脚は激しくなるばかり、雷もかなり近くだというのが分かる。30分も歩くと登山道の雨水は滝のように流れ落ち、上から登頂を諦めた先発組が足早に下山してくる。なかには無念そうな表情を浮かべた20数名の団体さんも。後で聞けば九州からはるばる登頂めざして訪れたらしい。オジサンも雨だけなら少々無理はするが、山上での雷は未経験なので、登山口の東屋まで引き返し様子をみる。大方の人は諦め9時を過ぎても逡巡しているのは和歌山から来たという単独行の男性とオジサンのみ。

意を決して再登頂に挑むも再び雷鳴? 

 9時過ぎには雨が上がり雷も収まったが、山頂は相変わらず雲で覆われたまま。だが、再び登山口に来る人々が増え始めた。聞けば下の駐車場で待機していたという。これに励まされて既に「下山届け」は提出済みだが、9時55分再アタックの意思決定を下す(内実は費用と時間をかけてここまで来たのだから、というのが本音)。

 2合目当たりに差し掛かると雲間から再び遠雷の音が聞こえ収まる気配がない。とにかく「8合目まで上れば避難小屋がある」と、今回は下山を考えなかった。天候も回復し日も差し始めるが雷鳴は続く。途中、地元の単独行者と会話を交わすと、雷鳴は岩手山ろくの自衛隊の着弾訓練の大砲の音だということが分かってホッとした。「人騒がせな空砲、戦争を知らない団塊世代は大砲の音は聞き慣れていないのです」。5合目くらいまでは順調なペースだったが、気温上昇とスタート直後の雨でつまづいたので集中力が萎えてきたのだろう、ペースがガクッと落ち、ようやく8合目の避難小屋に到着した。避難小屋とはいえ、建物は立派で水も豊富、管理人が常駐し寝具も貸し出している。今から山頂まで1時間半をかけて登れる時間帯ではあったが、一息入れたら、これ以上歩くのが厭になってしまった。非常食もあるので本日は避難小屋泊まりとし、家族に天候不順を理由に帰宅を1日延ばすことを伝える。ラジオのニュースによると東北地方一帯が激しい雷雨に見舞われ、岩手山北ろくで落雷による死者も出たらしい。やはり、半端な雷雨ではなかったのだ。それにしても酒なしの小屋泊まりはつらい。タバコも切れてしまった。

相の沢温泉「お山の湯」の口開け客に

5日は明け方にかけて雨はやんだものの、どんより曇ったまま。しかし、今日は「山頂か下山か」しか選択肢はないので雨具をつけ出発、岩手山頂を踏み1周1時間10分のお鉢めぐりをガスと強風のなかで終えた。火口壁の斜面は高山植物が咲き乱れていたが、名前はほとんど分からない。下山路は南麓の御神坂(おみさか)コースを3時間近くかけて下る。下山口にほど近い相の沢温泉「お山の湯」に口開け客として入湯、汗を流し付属の食堂で下界のビールとタバコを味わった。盛岡駅では名産の「椀子そば」はお腹に入りきれないので天ぷらそばを食し、東北新幹線「やまびこ」に身をゆだねた。

「費用と時間をかけて。せっかくここまで来たのだから、少々の天候不順でも登ってみよう」という心理が遭難原因の一つだということは、よく分かるが、実際の場面に遭遇すると、やはり無理をする人も多いだろうな…。

4日コースタイム=馬返し登山口(06:30)−2合目手前撤退(07:10)−馬返し登山口(07:30)−停滞、登山口再出発(09:55)−5合目半(12:30)−8合目避難小屋泊(14:30)

5日=避難小屋発(05:15)−不動平(05:30)−山頂(06:10)−不動平(06:40)−御神坂口(09:30)―お山の湯(09:55)                                              

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