またきたよ! つい、声をかけてしまうほど、私にとって北岳はなじみの山になってしまった。石神井山の会の存在すら知らぬ7、8年ほどまえ、登山などしたこともなかったときに連れられて行った白峰(しらね)三山縦走にはじまり、十月の単独、初心者を何人か連れて、山ちゃんと2人でなど、かれこれ五回目になるだろうか。でも、そのたびに、この山はいろいろな姿を見せてくれるし、何かを教えてくれる。さて、今回は……
気持ち高ぶる山行
午後十一時二十分、メンバー十五人を乗せた急行アルプス臨時号が新宿駅7番ホームからすべり出した。 今回の縦走は、最近にはなく初心者の参加が多い。入会したばかりの桐生さん、三千bは初体験の伊藤浩さんに森さんがそうだ。下山後、佐仲さんが「若い人が参加して気持ちが高ぶる山行だった」と感想をのべたように、二十五歳と二十六歳の女性が参加したのも、今山行の特徴だろう。三千bの山への挑戦は、初心者にとってきっと不安に違いない。私が初めて登山に触れたのも白峰三山縦走だったから、初心者の不安はよく分かる。 白峰三山は南北一五〇`、東西七〇`にわたる赤石山系に属す。その北部の北岳、間ノ岳、農鳥岳、仙丈岳を含む山系が白峰山脈で、そこから仙丈岳を除く連峰が白峰三山である。いずれも三千bを超えるというだけでなく、日本第二峰の北岳、同四峰の間ノ岳と、日本屈指の高山である。不安にならないほうがおかしい。 リーダーの私にとっても、責任は重大である。安全はもちろん、もう山はいやだといわれるような山行にはしたくない。その点、今パーティーにはサブリーダーとして吉田隆、浦添の両氏に加わってもらい心強い。 今山行の特徴といえば、もう一つ。北岳までは、ピストン組5人が加わったことだ。もともと、縦走の参加を前提にしていたのだが、中にはまったくの初心者や六十九歳の会員が含まれ、縦走はかなり厳しいと思われた。いろいろな思いが交錯するなかで、ぎりぎりまで結論はでなかったが、結局、五人はピストン組とし、北岳のピークを踏むまで同一パーティーとしたのだった。
眠らせないタクシー
私にとって、この大パーティーをどうトラブルなく、全員が気持ちよく下山できるようにするかは大きな課題であった。班分けして支持系統をしっかりさせる、どのテントをだれとだれが張るか、寒いときにはだれがどのテントで食事をとるか、寝るテントもしかりで、必要最小限のことは事前にメモで全員に渡したが、私自身の頭に入っていなければ、的確に指示が出せず混乱を招くだろう。それ以外に何か、重大なことが抜けていないだろうか。そんなことを、いっぱい飲みながらあれこれ考えているうちに、アルプスはほぼ定刻通り午前一時半、甲府駅に着いた。 改札口には予約しておいたタクシー会社の人が、名前が書かれたプラカードをもって待ち受けていた。4台のタクシーは、一時間二十分ほどで広河原に到着。我々四人が乗ったタクシーは、真夜中にもかかわらず、運転手の気合いがこもった観光案内で、一睡もさせてもらえなかった。 正味一時間ぐらい仮眠しただろうか。睡眠不足のぼうっとした頭を肩に乗せながら、吉田隆さんをトップに、十五人のパーティーは、北岳に向かっていよいよスタート した。昨日の雨がうそのように晴れ上がった。見上げれば、どこまでも深いブルーが目にやさしい。 南アルプスならではの濃い樹林は、予想に反して緑を残していて、陽光にすける葉の薄いグリーンと造形の美しさに、しばしば驚かされた。 後から我がパーティーを見ると、なかなかの迫力である。みんな真剣に歩みを進めている。すぐ左横を流れる沢の水は豊富で、勢いよく流れている。二俣では、大樺沢のところどころに薄汚れた雪渓が残っていて、新たな雪化粧を待っている。いよいよここからが急登だ。三年前と同様、米さんが遅れぎみとなり、根岸さんが付き添う。
地獄の水汲み
しばらく急登と格闘すると、樹林がぱっと開け、見上げると迫力のバットレスが現れる。夏なら、この辺りは癒しのお花畑だが、さすがに茶色く枯れていた。ここからもうひと登り。小太郎尾根の分岐にでると、るんるんの尾根歩きを楽しみ、短い急登を越すと、きょうの終点、青壁の肩ノ小屋がひょいと現れた。 喜びもつかの間、地獄の水汲みが待っている。若手の伊藤浩さん、桐生さんを指名し、立候補のさいちゃんを引きつれ、キャンプ場から落ちるように急下降した。おりてもおりても、なかなか水場が現れない。不安になってきたころ、右手下のブイ型にくぼんだ底に、一筋の流れを発見した。ちょろちょろ水で、6gが2個、2・5gが2個、その他メンバー全員の水筒を満杯にするまで、体が冷え切ってしまった。満杯にした水筒を担いで、壁のような坂を登り返した。 テン場に戻ると、心配していた米さん組が到着していた。一時間遅れとのこと。ということは、水汲みに一時間以上かかったことになる。 きょうの夕飯は焼肉だ。それと、いつもなら内藤さんが持参する、粕漬けのタラやイカを焼いた。これがまた美味で、疲れをふっとばしてくれる。そうこうしてるうちに、ぐっと冷え込んできて、カッパを着込んで我慢していた人も、耐え切れずに次々テントの中へと避難した。いったん温いテントに入ると、寝不足も手伝って交流もそこそこに眠りに落ちた。佐仲さんは、まだ元気をもてあましていたようだが。
15人そろってのピーク
3時に起床。天の川まで見える満天の星が、きょうの好天を約束してくれている。テントの中で朝食をとっているとき、女性陣の元気がない。聞けば寒さで眠れなかったという。なるほど、外に置いた6gの水筒には厚い氷。相当の冷え込みを示している。マイナス5度だった。初心者には、ちゃんと寒さ対策を指示しておけばよかったと反省。 朝焼けのオレンジ色があせた頃、十五人全員そろって北岳ピークに向かった。一時間ほどで、感動の握手の嵐しとなった。写真撮影や三百六十度の大パノラマを思い思いに堪能してから、縦走組は5人に見送られて間ノ岳を目指して出発した。
佐仲さんが走った!
下りはじめてすぐに、縦走路の起点のように北岳山荘の赤い屋根がぽつんと見える。深いブルーの空によく映える。ここで、バイオトイレを体験した。とても清潔で、雲上のトイレとは思えないほどだ。 相変わらず、雲ひとつない。陽光は初夏のようにやさしい。間ノ岳のピークでは、あまりに心地よく、しばしうたたねを楽しんだ。 のんびりしたペースではあったが、一時前には農鳥小屋のテント場に着いた。テン場が小屋の手前だったので、小屋を挟んで反対側のテン場を確認しようと相談するやいなや、うさぎのようにぴょんぴょんと階段を駆け登っていく姿が目に入った。目で追うと、なっ、なんと佐仲さんではないか。一瞬、目を疑った。他のメンバーも、みんな目を丸くしている。早く着いたとはいえ、アップダウンがあって、けっこう疲れているはず。金原さんだって、テン場の手前で座り込んでいたのだから。 佐仲さんのおかげで、反対側のテン場の方が、小屋にも農鳥岳にも近いということが分かり、そちらへ移動した。肩ノ小屋とは違い、人も少なく落ち着いた雰囲気だ。トイレが以前といっしょの重力方式だったので、時の流れに乗らない山小屋もあるのだなあと感動を覚えてしまった。しかし、あまり用を足したいトイレではないが。 ここで、北岳で桐生さんが話しかけたアメリカ人で、長野市で中学校の英語教師をしているというクリスに再会した。テン場は、いきなりジャパニーズイングリッシュが飛び交い、笑いのウズと化してしまった。
早起きは温泉の徳
最終日の朝は2時半起床だ。きょうは、十時間の行程だし、温泉にも入りたい。以外と暖かく、満天の星のもとでの朝食をとることができた。どうやら、女性陣も元気を取り戻したようだ。テントを撤収し、予定どおり4時半、ヘッドライトを頼りに、西農鳥岳の急登に挑んだ。 頂上に着くと、ちょうど日の出となった。ピークに立つ人たちが、紅色に輝く朝焼けの中に、富士山とともに影絵のように、黒くくっきりと浮き立ち夢の世界のようだ。 農鳥岳を越えると、あとは下り一辺倒である。とくに大門沢の急下降は有名で、数時間、下りっぱなしなのである。大門沢小屋を過ぎてからも長い。前回は、ここを駆け下り、膝を傷めた苦い経験がある。何度かつり橋を渡り、傾斜もゆるくなってきたころ、いきなり迂回路の看板が出て、林道へ上げられてしまった。また戻るのかと思ったら、登山道へは戻ることなく、2時半ごろには奈良田にあっさり着いてしまった。 不安は取り越し苦労に終わった。温泉で3日間の汗といっしょに、緊張感を洗い流すことができた。佐仲さんの発案もあり、ジャンボタクシーで身延駅ではなく、直接、甲府駅に向かった。よほど今回はついているらしく、またもや2時間みっちり観光案内がついて、居眠りすることは許してもらえなかった。
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【コースタイム】 9月22日 5:50起床
9月24日 2:30起床 着 発 3:10 広 河 原 6:45 着 発 (仮眠)
小 屋 4:20 7:45 一 本 7:55 5:30 西農鳥岳
5:44 8:53 一 本 9:05
6:27 農鳥岳 6:45 9:55 二 股
10:10 7:20 分岐点 7:34 10:44 一
本 11:00 8:40 一 本 8:49 11:44 一 本
12:00 9:21 河
原 9:31 12:25
分岐通過 10:15 大門沢小屋 10:30 12:40 一
本 12:57
11:27 一 本
11:35 13:12 小太郎分岐 13:25 12:47 一
本 12:16 14:00 肩の小屋 14:00 奈良田 16:05
18:05 JR甲府 9月23日 3時起床 小 屋 5:45 6:31 北岳頂上
7:00 7:55 北岳山荘
8:22 9:07 中白根山
9:23 9:52 一 本
10:04 10:46 間 の 岳
10:27 12:40 農鳥小屋
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