本当に行けるのか?
そんな不安は上高地に入ると「やるべきことはやったじゃないか」という開き直りともいえる自負と入れ替わり、妙に落ち着いた心持ちで北鎌尾根に挑戦することができた。
メンバー4人すべてが、初挑戦。自分の力を試す絶好の機会だった。立ちはだかる岩峰に気圧され、巻道の誘惑に負けそうになったり、岩壁のセミになりかけたりもした。また先行パーティーの一人が滑落するアクシデントにも遭遇した(ヘリの出動要請に協力。恐らく命に別状はなかった)。体力、登攀力、精神力を振り絞って、それらを乗り越え、槍の穂先を踏んだ瞬間、リーダーとして格別の充実感が胸に広がった。まさに、パーティーの総合力が今回の北鎌尾根縦走を成功に導いたのだ。メンバー全員に感謝したい。
山行をすこしだけ振り返ってみる。
星が瞬く午前3時15分、ヘッデンを便りに北鎌沢の遡行開始。20分ほどで最初の関門、二俣を無事右俣へ入る。ぐんぐんと高度をかせぎ、北鎌のコルが近づくころには、すっかり明るくなった。コルに乗るには、草つきを右にトラバースしなくてはならないが、踏み跡が不明瞭で、上がりすぎた。迷った末、プリンが上部の草つきをトラバースし、コルに到達した。ほっ!
後続の別パーティーは、通常のルートをトラバースしたが、そこから登りすぎてしまい、コルへはロープを出して降り立った。ルートファインディングは難しい!
核心部の独標トラバース。基部の出だしがすぱっと切れている。岩壁に緑のビニールひもがついているが、一歩足を出さないことには届かない。足を置くところは砂地で、いかにも滑りそう。意を決して、そろりと右足を乗せ、右手でロープをつかむ。カラビナをかけ、慎重に進む。わずか数歩ではあるが、決死のトラバースである。次の庇状の岩棚の通過は、あまりにも簡単で拍子抜け。もちろん落ちれば命はないが…。
独標トラバースを終え、尾根に向かう出だし。チムニーの真ん中に、古いスリングがぶら下がっているが、ハングしているので、その左側を登る。チムニー側に戻るタイミングがはずれ、しばしセミになる。ここも、落ちれば止まる所はない。何とか通過し、もろいスラブ岩を這い上がり、独標の尾根に立つ。先を急ぐので、独標のピークはパス。眼前に大きくなった槍が見える。おー、迫力!
白いざれた岩肌が特徴のP12。基部から右にトラバースしようとしたら、後続のリーダーから「そっちじゃない。直登!」の怒鳴り声。「了解!」。助かりました。
最後のピークP15。直登ルートを探していたら、おじさんが「こっちだよ」と自信をもって巻道を推奨していった。「本当かな~」。ケルンがあるから、行けないことはないはずだ。プリンは猛烈に直登を主張。おじさんが行った巻道を偵察に行くと、どうも方向が違う。引き返して、直登ルートを進むことにする。この巻道を進むと、槍の穂先の基部までまいてしまい、北鎌平も飛ばしてしまう。あとで彼らが、かなり下から登ってくるのが尾根から見えた。
北鎌平もすぎ、もうすぐ槍の穂先の基部に取り付く。小ピークを越えようとした瞬間、女性の「きゃー」という悲鳴とともに、ドスンという大きな音。「落ちたな!」と直感。案の定、先行パーティーから「安全なところで待機していてほしい」との要請あり。男性が大きな石をつかんで登ろうとしたところ、はがれてしまい、20㍍ほど滑落。幸いにも石は当たらず、滑落も途中で止まった。別パーティーがロープで引き上げようと試みたが、要救助者が痛みで手足が動かないということで、救助要請に切り替えたようだ。
当事者のパーティー仲間も、救助にあたったパーティーも携帯電話が通じず、こちらのメンバーの携帯で連絡。そのため1時間以上、ここで足止めとなった。
槍の穂先。上下の各チムニーともロープを出して、プリンがトップで登る。あとは、簡単。登山者でごった返す頂上に到達。ただ、あまりの人の多さに仰天。行列が肩ノ小屋まで続き、小屋から往復6時間もかかったとのこと。一般ルートも侮れない!
殺生ヒュッテのキャンプサイトに幕営。小屋で祝杯をあげたのは言うまでもない。
【コースタイム】
9月13日 清瀬駅19:00→20:50沢渡第2駐車場
9月14日 沢渡第2駐車場5:20→タクシー→上高地5:50→水沢乗越16:00北鎌沢出合
9月15日 北鎌沢出合3:15→北鎌のコル→16:50槍ヶ岳頂上→17:30槍ヶ岳肩→殺生ヒュッテ





